短歌 巻3

1.引き際が難しいなと感じつつ妻との会話楽しんでをり
2.回転を殺して投げるナックルは宇宙遊泳漂うごとし
3.誰一人来ぬ稽古場にたたずめば金木犀の香り漂ふ
4.いらいらの募る師走の真夜中に凍れる月をじっと見てをり
5.年老いて「高校三年生」聞きをれば日本の若い時代の歌なり
6.飼い犬の餌をめぐりて鳩雀着かず離れず飛び交ってをり
7.蛇口をばきちんと閉めぬ妻の手は弱くなりたり細くなりたり
8.雨脚の早くなりゆく夕暮れに 傘の小ささ孤独に濡れる
9.捏ねて混ぜ又引き延ばしかまぼこは弟の手で作られてゆく
10.故郷が夕陽の中にどっぷりと座ってをりぬ我を抱きつつ